今回(2001年初頭)1.5kgもの絹糸を、貝紫で染める機会に恵まれました。その染色工程の中で気の付いたことを以下に列記したいと思います。

●イボニシ、レイシ、アカニシ貝の巻貝による貝紫染めを行ってみたが、イボニシよりレイシ、レイシよりアカニシとだんだん赤味が強い紫になりました。

●還元には、苛性ソーダあるいは、ソーダ灰、ハイドロサルファイトを使うため、染色終了後、60℃の温湯の中へ酢酸を入れソーピングの作業を行いました。

●貝紫のパープル腺(染料になるところ)染料の構造としては、インジゴブルー、インジゴブラウン、インジゴルビン等、多種の染料が混ざっていると思われます。上述のソーピングの作業を行うとインジゴブルー、インジゴブラウンが脱落して赤みの帯びた貝紫になり堅牢度も上がっていきます。

最後に
古代の染色を研究しているうち、洋の東西を問わず高貴な色とされている貝紫に心をひかれました。
私の本業は組紐の染色業を営んでおりますが、染料はすべて化学染料で、時間に余裕のあるときに貝紫染め、紫根染めをやっております。
実用化という観点からは、この貝紫は大量生産には向いていない多くの古代染料の中で、色彩的にも耐久性の点からも、それに水洗いやアルカリ洗浄、日光に対して出色の堅牢度をもつ染料であります。ただ、生貝の生の成分を利用するので異臭を伴うことは避けられません。